今回紹介する絵本はむかしばなしです。一冊の中に3つの話が入っているのですが、どのお話も子供の《これってなに?》を引き出せるような言葉が散りばめられていたり、日常生活に生かせるような教訓が詰まっています。絵本の感想を話し合うことで、お子様の知的好奇心をくすぐり、考える力を育んでくれることでしょう。
欲を出しすぎるとバチが当たる
一つ目のお話は「ふしぎなたいこ」です。
人の鼻を伸ばしたり縮めたりすることのできる不思議なたいこがあったのですが、このたいこは人を喜ばせることにしか使ってはいけませんでした。
しかし、主人公のげんごろうは、どこまで鼻を伸ばせるのだろうということを試します。どこまでも伸びた花はとうとう天国まで到達してしまいます。天国では天の川の修復作業が行われており、大工さんがげんごろうの鼻を棒と間違えて固定してしまいます。
鼻が固定されているものですから、げんごろうが鼻を縮めると体が持ち上がり、天国まで行ってしまいました。
地上へ降りる方法がなくげんごろうは困るのですが、最終的には琵琶湖に落っこちて魚となります。
このお話からは、好奇心を持つことはいいことだけれど、ルールを逸脱してまで自分の欲を満たそうとすることは良くないということを伝えているのではないかと思いました。
ルールというものは、何かしらの理由があって作られているものでしょうから、何も考えずに自分の私利私欲のためにルールを違反するものには、バチが当たっても仕方ないでしょう。
このお話は、みんなが気持ちよく過ごすためのルールを守った上で行動しようねということを子供に教えてくれているように思います。
それが真実かどうかはわからない
二つ目のお話は「かえるのえんそく」というお話です。
京都に行きたい大阪のカエルと、大阪に行きたい京都のカエルがいて、それぞれ目的地に向かって遠足に出かけます。
天王山のてっぺんで二匹はばったり出会い、お互いのお国自慢を始めます。そこで大阪と京都のどちらが優れているか確認するために山から見てみようということになったのですが、大阪のカエルは大阪を、京都のカエルは京都を眺めてしまいます。
二匹とも、自分の住むところと同じような光景を目にして、自分が住むのと同じようなところをわざわざ見にいく必要はないと判断して、引き返してしまいました。
そして、地元のみんなに「大阪は京都にそっくりなところだ」「京都は大阪にそっくりなところだ」という話を聞かせました。
このお話からは、入ってきた情報を鵜呑みにせずに、自分の足や目で確かめようということ学べます。さらには、自分で見たこと(見たつもりになっていること)すら真実ではない可能性があることも示されています。
自分でしっかり確かめることがいかに大切かということをお子様に感じてもらえる素晴らしいお話ではないかと思います。
威張っている人に怯える必要はない
最後のお話は「にげたにおうさん」というお話です。
お寺の門に仁王が威張った表情で立っているのはなぜだかご存知ですか?
このお話はもともとお寺の門番だった仁王が、なぜ今もあんなに威張って立っているのかという理由がわかる内容になっています。
力自慢だった仁王は自分の力を確かめるために、いろんな国をまわって力くらべをしに行きました。どこへ行っても仁王にかなうものはおらず、仁王は有頂天になっていました。
そこへ、海を越えた隣の国にとても強い人がいるという情報が入ってきました。当然仁王はその人と力くらべをするために、船を漕いで隣の国へ向かいました。
とても強いという男は不在だったのですが、その男の親であるおばあさんとのやり取りで、仁王はその男にはとても太刀打ちできないと悟り、急いで船に乗り込み逃げ出しました。
しかし、男が投げた長い綱が船に絡みつき、船が海岸に引き寄せられ始めます。
もうダメだと思った仁王ですが、旅に出る前にお寺の和尚さんに命が危ないときに開けなさいと渡された箱の存在を思い出し、急いで開けたところ、中には刀が入っていました。
仁王はその刀で綱を切り日本へと帰って行きました。
これで安心と思っていましたが、ある日《あの男》が今度は仁王のもとにやってきたのです。男がお寺に入ってくると仁王はお寺の中を逃げ回り井戸の上に隠れます。
男は井戸の水に映る姿を仁王と勘違いして井戸に飛び込んでしまいました。
たまたまの勝利でしたが、仁王は自分が勝ったととても威張りましたというところでお話は終わります。
このお話が伝えたいことは色々とあるのかもしれませんが、世界は広いということと、威張っている人に怯えることはないというものがあるのではないかと思います。仁王は自分よりも弱い人を相手に戦っていただけで、自分より強い者が現れると戦うことすらせずに逃げました。
狭い世界で生きていると自分が一番優れていると勘違いしてしまうことがあるかもしれませんが、世界は広く、上には上がいるということを忘れてはいけません。
和尚さんは仁王がいつか危険な目にあうということをわかって送り出し、仁王に学びの機会を与えたように思います。
それにもかかわらず、仁王は最後まで威張っているという滑稽な終わり方をしていますが、我々にも学びを与えてくれるお話だと思います。
仁王も威張ったりせずに、自分の力をみんなのために使うことができれば、こんな形で後世まで語り継がれることはなかったのにね。
地に足をつけて進んでいこう
3つのお話についてのまとめです。
お話に出てきた主人公たちは、決まりごとを守れなかったり、早とちりであったり、謙虚さが欠けていたりということで、痛い目にあったり、機会を損失したりしています。
これらのお話からは、約束事を守り、慢心することなく、着実に歩みを続けましょうというメッセージを感じることができます。
楽しいお話の中にも多くの学びのある一冊ですので、図書館で見かけたら是非手に取ってみてください。
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