生きる、ということ 「みどりバアバ」

子育て

みどりバアバ(童心社)
作 ねじめ正一
絵 下田昌克

テーマ:死と向き合う

子供のころって1日がものすごく長く感じて、大人になる自分なんで想像もできず、人生に終わりがあるなんて考えもしなかったという方は結構いるんじゃないかなと思います。

それだけに、大好きだった人の死に初めて直面した時には、すごく悲しいし、すごく怖い気持ちになるものだと思います。

そして、大人は大人で、亡くなった方に対して、もっと何かしてやれたと後悔の念に駆られることがあるかもしれません。

この作品は、「死」を取り扱ったお話であるものの、ぬくもりのある絵や文章表現で描かれているため、子供にも受け入れやすいと思います。

「死」を考えるということは、「どう生きるか」を考えることでもあると思います。

この絵本は親子でいろいろなことを考えるきっかけになってくれる一冊です。

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みどりバアバの思い

みどりバアバは同居する息子夫婦と一緒に商店街でお花屋さんをしていました。

そして、孫のこうくんを「こうくんちゃん」と呼んでかわいがってくれていました。

みどりバアバの作るコロッケは大きくて美味しくて、みんなみどりバアバのコロッケが大好きでした。

とても幸せな毎日を送っていたみどりバアバですが、ある日、コロッケを作っていると右手に力が入らなくなり、それからだんだん右手が動かなくなってきました。

病院に行っても原因はわからず、みどりバアバはコロッケも作ることができず、お花の世話ができないので、お花屋さんにも行けなくなりました。

父さんはバアバの体を心配しているんだよと言って、どうしてもお店に行きたいというみどりバアバの気持ちを受け入れてくれません。

みどりバアバの右手はさらにひどくなり、お箸も持てなくなってきたのですが、我慢できずにこうくんと一緒にお花屋さんに行ってしまいました。

すると、父さんはお店にきたみどりバアバに怒り、こうくんにもちゃんとみどりバアバを見てなきゃダメでしょという話をしました。

みどりバアバは言い返しました。

「こうくんちゃんは、私の見張りじゃないよ」

こうくんも、みどりバアバがお花やお店が好きなことを父さんに訴えかけました。

みどりバアバは悲しそうな顔をして、花屋は私にとって生きることなんだよと、父さんに言いました。それを聞いたこうくんもこう続きます。

「そうだよ。みどりバアバの生きるなんだよ!」

こうくんは、みどりバアバの気持ちをよくわかっていた一番の理解者でした。この言葉を聞いたみどりバアバは、「みどりバアバの生きるって、いい言葉だね。こうくんちゃん、ありがとう。帰ろう。」と言いました。

そして、家に戻ると家中のお花に「ただいま」と挨拶をしました。

その日から、みどりバアバはお店に行かなくなり、寒い日の夜に倒れてしまい、そのまま帰らぬ人となってしまいました。

みどりバアバは、お花屋さんで働くことが生きがいだったので、右手が不自由になって十分な働きができないとしてもお店に立ちたいという思いが強かったのだと思います。それは自分のわがままだとわかりつつ、父さんが止める気持ちもわかりつつ、どうしてもお店に立ちたかったのだと思います。

こうくんはそんなみどりバアバの気持ちを理解してくれ、父さんに必死に訴えかけてくれました。そのこうくんの気持ちが本当に嬉しかったのだと思いますし、その言葉でどこか諦めがついたようにも感じました。みどりバアバにとっての「生きる」ができなくなった時に、みどりバアバは自分の人生ももう長くないと悟ったようにも感じました。

こうくんに、「ありがとう。帰ろう」というみどりバアバは、寂しい気持ちも大きかったと思いますが、こうくんのような孫がいることがとても嬉しかったと思います。

みどりバアバの本心は誰にもわかりませんが、お店に行かなくなってからのみどりバアバは、もう思い残すこともなく、幸せな人生だったなという思いを巡らす日々を送ったのかもしれません。

「死」というものに直面したこうくん

大好きだったみどりバアバが亡くなったあと、こうくんは様々なことを感じたと思います。

学校で連絡を受けたときは、怖いという気持ちから、ちょっと遠回りをして家に帰ります。

亡骸と対面し、葬儀を終えるまでに、怖いという感情や、なんだか悔しいという感情が出てきました。

家に戻った後に、疲れて横になっているとこうくんは眠っていました。

夢の中にみどりバアバの大きなコロッケが現れて、それが落ちてきたので目を覚ましました。

そこから父さんとお弁当を買いに行くのですが、お花屋さんに寄りたいと言って、お店に行きました。

そこで、父さんの後悔の言葉を聞き、死んだみどりバアバはどこに行くのかということを考えます。

そして、お店の中で聞いてくれているであろうみどりバアバに向かって、大きくなったら花屋さんになると決意表明をして、走り出しました。

最初は死というものに対する恐怖心しかなかったこうくんですが、時間の経過や父さんとの会話で、少し受け入れることができたのでしょう。

最後にはみどりバアバと同じお花屋さんになると言って、お花が大好きだったみどりバアバの思いをつないでくれました。みどりバアバは本当に嬉しかったと思います。

こうくんは気づいていないかもしれませんが、みどりバアバはこうくんの中で生き続けています。

父さんの葛藤

このお話で一番辛い思いをしているのは父さんだったのかもしれません。

みどりバアバのことを思うからこそ、調子が悪くなってからのみどりバアバに店に来ないように言ったのですが、こうくんとお弁当を買いに行く時に寄ったお花屋さんの前で、涙を光らせて、「みどりバアバに、花屋の店番、もっとやらせてあげればよかった」と言います。

体に気を遣うことも大切だけれども、バアバの思いももっと大切にしてあげたかったという後悔が見てとれます。

バアバを店に来させないという父さんの判断は決して間違いではなかったと思いますが、答えのない問題だけに「たられば」を考えて、後悔してしまう気持ちはよくわかります。

だけれども、みどりバアバの思いを継いでお花屋さんになると言ったこうくんの言葉に父さんも少し救われたと思います。

こうくんが本当に将来お花屋さんになるかはわかりませんが、こうくんがみどりバアバを思う気持ちや、みどりバアバがこうくんに残してくれたものがしっかりあるんだと感じたに違いありません。

生きるということ

このお話では、みどりバアバ、こうくん、父さんという3人の気持ちの変化などを通じて、「生きる」ということはどういうものなのかということを教えてくれています。

人の命は永遠ではありませんが、思いは永遠に繋いでいくことができると思います。

こうくんはみどりバアバとのふれあいや別れから多くのものを学び、みどりバアバと父さんはこうくんの存在に救われたように思います。

こうやって人は支え合い前に進んでいくんだなということを伝えてくれる素晴らしい絵本ですので、是非みなさんお子さんと読んでみてください。

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